「授業に使える古典の漫画化作品」をご紹介♪

「授業に使える古典の漫画化作品」をご紹介♪

2021年03月18日

一雨ごとに春めく季節、いかがお過ごしでしょうか。
国公立大学の後期日程も終わりましたが、最終結果が出るまでもう一踏ん張り、という先生もいらっしゃれば、修了式(終業式)という区切りに向けて力を尽くされている先生、はたまたご自身の異動のため、気持ち的にも物理的にもお忙しくされている先生もいらっしゃる頃かと拝察いたします。

ご挨拶が遅れましたが、京都書房編集部のAです。京都書房公式キャラクター「葛(かずら)ちゃん」のマネージャーもしております。


▲「葛ちゃん」@Kazura_KyoShoでは、国語や古典、京都の話などを気ままに・ゆる〜くツイートしています。フォローお待ちしています♪

さて今回は、上記ツイッターアカウントでもしばしば話題にしている、「授業に使える古典の漫画化作品」についてご紹介いたします。

人物の服装も調度品も世の常識も、現代とは大きく異なるのが古典の世界。多くの高校生にとっては、「自分とは縁遠い世界」に感じられがちです。そのため、描かれた出来事や心情を自分に引きつけて読むことが難しくなり、「古典は単語や現代語訳を覚えて点数を取る『暗記科目』」と認識している生徒さんも少なくないのではないでしょうか。
その原因として、「古典の文章の中で描かれた光景が、頭の中に思い描けない」ということが大きな割合を占めているように思います。この点において、情報を程よく抽象化・ビジュアル化して見せてくれる漫画やサブカルチャー作品は、特に古典の学びはじめの時期の頭に「古典世界のイメージを持たせる」のに最適だと考えます。

……という私自身、中学校の図書室で出会った『あさきゆめみし』から古典の世界に足を踏み入れた口です(実はそれ以前から、実家の本棚に母のお気に入りの巻が並んでいて、背表紙だけなら見覚えがあったのですが)。

古典が原作の漫画といえば一番にタイトルが挙がる、王道中の王道。副教材として採用されることもある作品ですが、今の生徒さんにとってネックになるのが、「絵柄」の問題かと思います。
それだけの理由で敬遠してしまうのももったいないとはいえ、サブカル作品における絵の問題というのはどうしたって大きく——某鬼退治アニメーション映画のヒットにしても、コアな層向けの作品制作で鍛えられた美麗作画が最大の要因といってもいいわけで——やはり、特に現代のビジュアル世代にとって、絵柄・作画といった視覚情報の占める部分は大きいのが実情です。

というわけで、以下「今風の、高校生に親しみやすい絵柄」で「古典の理解に役立つ」、といった観点から選んだ作品をご紹介いたします。

①『はやげん! 〜はやよみ源氏物語〜』花園あずき著・新書館刊

とにかく「登場人物の区別がつきやすい」のが一番のポイント。内容もテンポよく、54帖が1冊にまとめられています。
そのぶん省略も多く、装束などの描かれ方はあまり厳密ではありませんが、「場面の流れを押さえる」「全体のストーリーを知っておく」のには有効です。

②『本日もいとをかし! 枕草子』清少納言、小迎裕美子著・KADOKAWA刊

人気イラストレーターによる、『枕草子』のコミック化作品。続編として『人生はあはれなり……紫式部日記』もあります。
後宮キャリアウーマン・清少納言の手による有名章段の内容を「にくらしい日々」「センチメンタルな日々」「毒舌な日々」といった小見出しをつけてさらに噛み砕き、軽快なタッチで描いています。

③『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典』
蛇蔵&海野凪子著・幻冬舎刊

人気コミックエッセイ『日本人の知らない日本語』の著者ペアによる文学史漫画。
『更級日記』の「源氏の五十余巻」、『徒然草』の「筑紫に、なにがしの押領使」、藤原道長、鴨長明……などなど、定番教材の有名エピソードや登場人物解説が、さっぱり読みやすくまとめられています。
「夢見るオタク少女・菅原孝標女」「脱サラした文化人・兼好」など、現代風のキャラ付けも秀逸だと思います。

④ D.キッサン著『千歳ヲチコチ』一迅社刊

『堤中納言物語』の「虫愛づる姫君」をモデルにしたような、風変わりな貴族の娘が主人公のオリジナル漫画作品。「カジュアルな平安恋絵巻」とでもいいましょうか、古典の漫画化ではないのですが、平安貴族の日常の雰囲気を現代風のギャグタッチで描いた佳作です。
「返歌のマナー」や「大学寮」、「五節舞姫」や「宮仕え」など、ストーリーの中に古典常識が散りばめられていて、なかなか侮れません。

以上、個人的なオススメ作品を紹介してまいりましたが、もちろん各古典作品そのものの解釈にも諸説あるうえ、「過度に抽象化された情報もどうなのか」「軽薄なサブカルチャーを通して内容だけ理解したところで、古典の醍醐味を味わうことはできない」等々、漫画の授業への活用にはさまざまな考え方があることでしょう。

ただ現状、多くの生徒さんにとって、古典が「無味乾燥な、遠い昔の誰か知らない人の書いたもの」になってしまっていることは否めません。
しかし、教科書に載っている作品が、彼らが日々消費しているさまざまな創作物のルーツとなっていることも事実。そのギャップをどうすれば埋められるのか、その方法を模索することは、決して誤った方向性ではないと考えます。

漫画作品ではありませんが、教育現場の実践例が多数収録された『「サブカル×国語」で読解力を育む』(町田守弘著・岩波書店刊)も興味深いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
全てではありませんが、今回話題にした漫画作品は京都書房の資料集(『新訂国語図説 五訂版』『新国語総合ガイド 五訂版』)にも「文学とメディアミックス」などの項目で掲載していますので、併せてぜひ一度ご覧ください。
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国語・国文学専門の教育出版社
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