編集部のCです。秋晴れの過ごしやすい日が続いています。京都の観光客の姿もずいぶんと戻ってきました。
先日、とあるイベントで配布するため、京都書房オリジナルの「百人一首しおり」を制作しました。今回はその制作過程の一部をお見せしたいと思います。
百人一首大会の季節に向けて、和歌に関する学習の参考にしていただければ幸いです。
今回は、弊社の大判資料集『新訂 国語図説』の付録として、しおりの作成を企画しました。
小倉百人一首から、代表的なものや、季節感や情感に親しみやすいと思われるもの5首を選び、それぞれの歌のイメージでデザインと香りを施しました。
今回選んだのは、次の5首です。
1 ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 紀友則(春)
2 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ 崇徳院(恋)
3 ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平朝臣(秋)
4 しのぶれど色にいでにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで 平兼盛(恋)
5 めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな 紫式部(雑)
四季の歌を1首ずつ入れるという案もありましたが、改めて見てみると春や秋、恋の歌の割合が多いことに気づき、このようなセレクトとなりました。編集部員たちの意見も取り入れ、現代の私たちにも情景がイメージしやすい歌や、思いに共感しやすい歌を選びました。
次は、これらの歌をイメージしたグラフィックと、香りの打ち合わせです。
参考書籍(*)を見ながら、それぞれの歌のイメージに合う色を選び、デザインを依頼しました。
*長崎盛輝『新版 かさねの色目 平安の配彩美』(2006、青幻舎)
長崎盛輝『新版 日本の伝統色 その色名と色調』(2006、青幻舎)
かさねの色目を調べていると、当時の人々が、身の回りの様々な植物などを用いて工夫を重ねながら、豊かな色の表現を作っていったことが感じられます。
香りは、アロマセラピストの方に提案していただきながら、それぞれのイメージに合い、かつ5つの違いがはっきりわかるように調整していきました。下は、打ち合わせ中の写真です。
香りはそれぞれ、2,3種類のアロマオイルを調合して作っていきます。同じオイルの組合せでも、少し割合を変えるだけで雰囲気が変わるので、繊細な感覚が必要になります。
今回、色目や香りのイメージは次のように考えていきました。
1 ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
色 :春らしく、薄紅と萌黄の組合せ
香り:フローラル系の華やかな香り(ゼラニウム・ベルガモット)
2 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
色 :浅葱色で、水の流れをイメージ
香り:ミント系のさわやかな香り(ペパーミント・ジュニパーベリー)
3 ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
色 :情景そのままに、紅葉のかさね
香り:フローラル系の濃厚な香り(イランイラン・ラベンダー)
4 しのぶれど色にいでにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
色 :「しのぶ」という言葉から、忍のかさね
香り:ウッディ系の渋い香り(ティートリー・フランキンセンス)
5 めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな
色 :紫式部のイメージで、薄紫と濃紫の組合せ
香り:ウッディ+柑橘系の渋い香り(サイプレス・オレンジ・グレープフルーツ)
以上のような数回の打ち合わせを経て、5種類のしおりが完成しました。
今回は一般向けのイベントで配布しましたが、最も人気が高かったのは紫式部の「めぐりあひて」。「ちはやぶる」「ひさかたの」が人気ではと予想していましたが、意外な結果となりました。
さて、和歌は入試頻出でありながら、苦手意識を持つ生徒さんも多いと聞きます。
今回のしおり制作のような作業では、「どのような商品・グッズを制作するか?」というところから始まり、以下のような問いに向き合うことになります。
・百人一首のなかで、好きな歌を挙げるならどれか?
・その歌を選んだのはなぜか?
・その歌を詠んだのはどんな人か?
・その歌は、誰にあてて、どのような状況で詠まれたのか?
・その歌は、どんな思いを詠んでいるのか? それは現代人にも通じるものか?
これらの問いに対する答えを整理したうえで、どのような色・柄やフォントを使うかなど、具体的なデザインに落とし込んでいきます。
自分が好きな歌を選ぶところから入るため、歌人や和歌の背景など、より深い部分に興味を持つきっかけになりやすいのではないかと思います。
近年は百人一首や源氏物語など、古典をモチーフにした商品が一般向けに販売されているのを見かけます。例えば、次のようなものです。
・琵琶湖ホテル(外部リンク)
『百人一首ランチ』『百人一首カクテル』(百人一首をモチーフとした食事やカクテル)
・清水坂ガラス館―ぴあり―
古典をモチーフとしたアクセサリー。物語や歌のイメージを繊細に表現されています。
「百人一首シリーズ」(外部リンク)
「源氏物語シリーズ」(外部リンク)
また、伝統的な京菓子も、古典を題材に作られることがあります。
毎年京都で開催されている「京菓子展」(外部リンク)では、文学や和歌からイメージして作られた京菓子作品が展示されます。以下は、「小倉百人一首」をテーマとした2017年の受賞作品の一つです。
デザイン部門 大賞 古島一行「清流」
参考和歌:瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
写真提供:有斐斎弘道館
このように、さまざまな分野で、言語活動の一環として他教科と関連させた取り組みも可能かもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
京都書房では、創業当初の1962年以来、百人一首の教材を教育現場に提供してまいりました。
現在は関連書籍を4点刊行しております。ぜひ古典の学習にお役立てください。
→小倉百人一首 関連書籍
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国語・国文学専門の教育出版社
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