こんにちは、京都書房編集部のMです。寒暖の差が激しいですが、少しずつ春の気配がしてきましたね。
1月に大学入学共通テストが終わり、今月は私立大や国公立二次の入試が順次行われています。
京都書房のHPでは、2023年度共通テスト国語の参考資料として、古文・漢文問題の現代語訳・書き下し文を公開しています。
よろしければ、下記よりぜひご参照ください。
「大学入学共通テスト 参考資料」はこちら
さて、今回は「日本漢文」についてお話をしたいと思います。
※ここでの「日本漢文」は、「日本人が著述する漢文」という狭義でとらえます。
学習指導要領では、以前から「日本漢文」への言及はありましたが、今回の改訂で「我が国の言語文化への理解を深める学習」に重点が置かれるようになり、それに伴って古典教材としての日本漢文により注目が集まるようになりました。
それは入試にも顕著に表れており、たとえば2023年度の共通テスト追試では、2017年以来となる日本漢文が出題されました。(安積艮斎「話聖東伝」)
また、2021年度の入試では日本漢文の出題はまだ少なく、出題される場合もほとんど国公立大学での出題でしたが、2022年度では2021年度の倍以上の出題数となり(※弊社独自調べ)、私立大での出題も見られるようになりました。
以下、参考までに、2021・2022年度の入試で日本漢文を出題した大学の一例です。
【2021年度】
東京大学 井上金峨「霞城講義」
筑波大学 菅原文時「封事三箇条」
広島大学 「女学読本」
【2022年度】
名古屋大学 佐藤一斎「愛日楼全集」
学習院大学 大槻磐渓「近古史談」
立命館大学 信夫恕軒「恕軒遺稿」
このように、注目度が上がっている日本漢文ですが、漢語を基礎とする元来の漢文と比べて、日本漢文にはどのような特徴があるのでしょうか。
漢籍を日本語として読むための「訓読」という日本独自の表現様式を用いている点は一つの大きな特徴と言えますが、日本漢文を古典教材の1つとして見たときに、素材として非常に面白い特徴といえるのが「日本文化との密接な関連性」ではないかと思います。
私が中学や高校の古典の授業で漢文を学習していたとき、「漢文は中国の書物」という意識があり、どこか遠い存在でした。
しかし、日本の文字や文体という言語文化の歴史を紐解いたとき、中国からやってきた漢字や漢文は切っても切り離せません。
その流れを理解したときにようやく、古典の授業に漢文が含まれる意義がよくわかった気がしました。
例えば、「十七条憲法」といえば、奈良時代に聖徳太子(厩戸皇子)が作った日本最初の憲法であり、「和を以て貴しとなす」などの有名な一文があることも知識として知っている人は多いでしょう。
しかしその原文が、『文選』の影響を受けた典雅な漢文で書かれていることは、案外見落とされがちです。
これには、奈良時代より前に中国から漢籍が伝来し、日本でそれが知識人の「教養」として受容され、以降長い間日本の公文書は漢文で書かれていたという文化的背景があります。
また、公文書以外でも芸術的要素として、知識人の間で早くから漢詩の創作が始まりますが、多くの詩人が漢詩と同時に和歌も残していました。
例えば、知識人としての才能に秀でていた菅原道真は、大宰府に左遷されたときの心情を梅の花に託し、漢詩と和歌の両方を残しています。
【漢詩】
「梅花」
宣風坊北新栽處
仁壽殿西内宴時
人是同人梅異樹
知花獨笑我多悲
【和歌】
東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ
当時の日本人は、漢詩と和歌の両方を使って心情を表現していたのですね。
また菅原道真は、『新撰万葉集』という、和歌に訳詩を加えた私撰詩歌集も残したと伝えられており、当時の漢詩と和歌の密接な関連をうかがうことができます。
このように日本漢文は、日本文化と漢文を橋渡しする教材として、非常に魅力的な素材であるといえるのではないでしょうか。
「漢文は遠い存在」「漢文は日本語と全然違うから苦手」と思っている生徒さんも、例えば「十七条憲法」や『日本書紀』などの訳文と原文を読み比べてみたり、『新撰万葉集』の和歌と訳詩を読み比べたりすると、日本語と漢文の「近さ」を感じてもらえるかもしれません。
最後に、日本漢文の教材例として、最近の入試で複数出題が確認された作品をいくつかご紹介いたします。授業の参考になりますと幸いです。
また、弊社刊行の『新訂国語図説六訂版』や『漢文学習必携三訂増補版』では、日本漢文に関する記載を増補しています。併せてぜひご参照ください。
【「日本漢文」出題例】
・頼山陽 「日本外史」
・菅原道真 「菅家後集」「菅家文草」
・佐藤一斎 「愛日楼全集」「言志録」
・大槻磐渓 「近古史談」
・依田学海 「譚海」
・林羅山 「林羅山文集」
・夏目漱石による漢詩
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